ご案内
温暖化問題に取り組み始めた当初から私は、二酸化炭素(CO2)による地球温暖化問題は、大量生産、大量消費、大量廃棄を旨とする二十世紀型工業社会の見直しを迫るという意味で、きわめて重大な文明史的意義をもつことを直覚した。
しかも、地球温暖化防止のための二酸化炭素排出削減が経済に及ぼす影響は、私のような経済学者にとって、きわめて興味深い問題であることは言うまでもないが、挑戦しがいのある大問題であるようにも映った。
なぜなら人間の経済活動のことごとくがCO2の排出を伴い、そして経済発展はCO2排出量の増加を不可私が地球温暖化問題に関わりを持ち始めたのは、一九九○年夏のことである。
なぜそうだったのかというと、この年六月、関西財界の有志が音頭をとって、関西の経済界、自治体、学界の面々が一堂に会して地球環境問題を考えるための場として、「地球環境関西フォーラム」が設けられ、図らずも私が、「基本理念を検討する部会」の座長を仰せつかることになったからである。
避的に伴うと思えたからである。
そこで私の抱く問題意識は、次の二つに大別された。
一つは、二十世紀型工業文明に替わる二十一世紀型文明の構想である。
もう一つは、地球温暖化を防ぐための様々な対策が及ぼす経済影響の評価である。
過去足かけ八年間、必ずしも地球温暖化問題に没頭してきたわけではないが、以上二つの問題について私は、地道に思索を重ねてきたつもりである。
地球温暖化問題とは何なのか、なぜいま地球温暖化問題が問われるようになったのか、地球温暖化問題はいかなる文明史的意義を有するのかについて、私の思い至ったところを、一般の読者を意識してできるだけわかりやすく簡潔に述べる。
地球温暖化のメカニズム、そして地球が温暖化すると私たちはなぜ困るのかを、気象学には素人の私ではあるが、いくつかの参考文献を参照しつつ、素人にもわかるように説き明かしてみる。
素人の私がそう言うのだから、確かなはずである。
一九八○年代末になって、なぜ地球温暖化問題への国際世論の関心がやにわに高まったのかを、これまた国際政治学には素人の私なりに解き明かしてみる。
そして、地球環境問題を考える際のキーワードの一つである「持続可能性」という言葉の意味するところ地球温暖化問題をめぐる様々な見解の相違のゆえんを、文化的伝統の差異に還元して、その意味するところを解きほぐしてみる。
実際、地球温暖化の元凶であるCO2の排出削減をめぐるアメリカとEU(ヨーロッパ連合)の対立ないし見解の相違を見るにつけ、大西洋を間に挟む二つの地域の文化的差異に思いを致さざるを得ない。
大西洋の西側には、究極のエネルギー多消費社会、そして市場万能主義の国アメリカがある。
その東側には、環境を経済に優先させることをほとんど自明の理と心得る、リベラルな文化的について、私の思うところを語ってみる。
地球温暖化問題について楽観的な見解を吐露する専門家は決して少なくない。
温暖化防止のための「早期の対策」に否定的なアメリカの科学者、技術者、そして経済学者は、いずれ劣らず、市場と技術を万能視する人々だと言ってよい。
彼らを楽観主義者と言うかどうかはさておくこととして、彼らの言説のことごとくが、今から二○○年前の一七九八年に「人口の原理」を書いたTの言説に酷似しているという意味で、彼らは「ネオ・M主義者」に他ならないのである。
地球温暖化をめぐる昨今の論争を、十八世紀末以来延々と続くM主義対反M主義の論争という図式に照らして解読するとわかりやすい伝統を持つヨーロッパがある。
そこで問われなければならないのは、地球温暖化問題に対する日本政府の見解が煮え切らない、そしてともすれば経済を環境に優先させがちな日本の文化的伝統の正体は、いったい何なのかである。
環境と文化の関わりについての考究には、まことに興味深いものがある。
二酸化炭素の大量排出を不可避的に伴う二十世紀型工業文明に替わる二十一世紀型文明とは何なのか、その正体をおぼろげながらも探ってみる。
地球温暖化問題は、エネルギー需給の問題と表裏一体の関係にある。
政府部内の意見が省庁間で対立するのも、また国内世論がまとまらないのも、その根源的理由はそこにある、と私は見ている。
わが国のエネルギー需給の現状と展望について述べる。
わが国のエネルギー消費の推移を振り返ることにより、経済成長とエネルギー消費の関係について考える。
その上で、エネルギー消費の増加を伴わない経済成長がありうるのか否かについて考察を進める。
第二次オイルショック後の八○年代前半期には、エネルギー消費の増加を伴わない経済成長が実現した。
ところが一九八六年の石油価格の暴落とバブル経済期の幕開けを受けて、八○年代後半にはエネルギー多消費の時代が訪れた。
その後、九○年代に入ると、平成不況のために経済成長率はゼロ近くにまで下がったにもかかわらず、エネルギー消費は実に堅調な伸びを示した。
こうした過去の経緯を振り返ることにより、今後のエネルギー消費とCO2排出の削減の可能性について見通してみる。
エネルギー供給のあり方について考える。
目下のところ、わが国のエネルギー供給の八七%を、石炭、石油、天然ガス等の化石燃料が占めている。
残り一三%は水力、原子力、太陽光等の自然(再生可能)エネルギーである。
日本の国土の現状を鑑みれば、水力発電のこれ以上の立地は望めない。
だとすると、原子力と自然エネルギーしか、化石燃料に代替するエネルギー供給源は残されていないことになる。
確かに、原子力は発電に際してCO2を一切排出しないという意味で、温暖化防止に寄与する理想の電源のように見受けられる。
その限りにおいては、まったくその通りなのだが、安全性、立地、行政のあり方等、原子力をめぐる問題点が山積している。
とりわけ昨今、原子力発電所の立地が、往時に比べて格段に難しくなったとの感が否めない。
なぜ原子力発電所の立地がそんなに難しくなったのか、原子力行政はどうあるべきかなどについて、かなりの紙幅を割いて私見を述べることにする。
また、太陽光を始めとする自然エネルギーの利用を促進するための政策措置についての私見をもあわせて述べる一九九七年三月に京都で行われる「気候変動枠組み条約第三回締約国会議」において、条約附属害1国(OECD諸国及び旧ソ連・東欧の市場経済移行国)に対して、二○○○年以降のCO2排出削減目標が定められる。
削減の数値目標が何であれ、目標達成のために、しかるべき対策が講じられなければならない。
対策として考えられるのは、税、課徴金、補助金、排出権取り引き等の経済的措置、規制的措置、そして企業や個人の自主的取り組みである。
これら三つの対策のそれぞれについて、それらの有効性と、それらが及ぼす経済影響を経済学的に評価するのがねらいである。
様々な対策の有効性と実行可能性について概説した上で、経済的措置のうちで最も関心の高い「炭素税」の有効性とその経済影響について子細に検討する。
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